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【翻訳】アンリ・ド・レニエ「エピローグ」(Henri de Régnier, « Épilogue », in Poèmes anciens et romanesques, 1890, p. 149-150)/ 森本淳生

  • 日本ヴァレリー研究会
  • 2 日前
  • 読了時間: 3分

更新日:1 日前

        EPILOGUE

 

          I

 

Au vieux livre à fermoirs de griffes et d’émaux

Studieux d’être maître en l’ordre des magies

J’ai dédié mon Âme et toutes énergies

À savoir la vertu diverse des joyaux.

 

L’émeraude aide les enfantements jumeaux,

Le rubis qui rend chaste éloigne[1] des orgies,

Améthyste, sagesse, œil des bonnes vigies,

Et le diamant vainc le poison et les mots !

 

J’ai tué le lapidaire, un soir qu’il taillait

À l’établi la cymophane et le jayet,

Antidote préservateur du sortilège,

 

Et j’ai volé pour vous ces pierres, ô Jolie !

Et j’ai mis à mon doigt sachant son privilège

La chrysolithe qui guérit de la folie.

 

爪持つ七宝の留め金のついた古い書物に

私は、魔術の世界の大師になろうとして

わが〈魂〉とありとあらゆる活力を捧げ

諸々の宝玉の様々な効力を知ろうとした。

 

エメラルドは双子の出産を促す、

ルビーは貞淑にし酒池肉林を遠ざける、

紫水晶は知恵にして、良き見張りの目、

そしてダイヤは、毒と空言にうち勝つ!

 

私は宝石職人を殺した、ある晩、彼が

作業台で、呪いを防ぐ解毒の力を持つ

金緑石と黒玉をカットしていたときに、

 

私はあなたのためにこれらの宝石を盗んだ、おお美しき人!

そして自分の指に嵌めたのだ、その特性[2]を熟知する

貴橄欖石、狂気を癒やす宝石を。

 


          II

 

Après avoir vaincu les lèvres, sans souci

Du rebelle sourire où le baiser s’élude,

Ni le geste brutal qui, toute, Une dénude

Hors ses cheveux plus longs qui la vêtent aussi !

 

Pour avoir frustré la Chimère de ceci :

Ses gemmes que la grotte éblouissante exsude,

Larmes mortes que pleure et germe le roc rude

Notre vie est prestigieuse et nous voici :

 

Hôtes muets des Terrasses de survivance,

Maîtres du vain trésor pour qui l'âme dépense

Ses midis d’aventure et ses soirs orgueilleux,

 

— O mémoire mêlée à quelques pierres pâles ! —

À regarder comme un visage et d’anciens yeux

Bleuir la lune vide et les tristes opales.

 

口づけを巧みに避けるつれない微笑も[3]

ひとりの〈女性(ひと)〉を全身露わにして

より長い[4]髪をまとうだけにする[5]粗暴な身振りもなく

口づけを奪い去った後となっては!

 

それを〈不可能な夢(キマイラ)〉から奪ってしまったのだから、

眩い洞窟が分泌するその宝石、

ごつごつとした岩が流す芽のような死んだ涙

私たちの人生とは素晴らしい幻影[6]、私たちは、

 

生き残りの〈テラス〉の物言わぬ客人にして、

空しい宝の主(あるじ)、魂はこの者のために

冒険の真昼と誇らかな夕べを費やして

 

──おお、いくつかの蒼白な宝石と混じり合う記憶よ!──

眺めやる、人の顔と古なじみの目のように

空虚な月と悲しいオパールの数々が蒼ざめるのを。

 

 

[1] 初版:eloigne(誤植)

[2] 原語はprivilègeで一般には「特権」の意だが、宝典は派生的語義としてAvantage naturel, don particulier de quelqu'un, propriété de quelque choseと解説し、このレニエの詩句を挙げている。

[3] このソネの構成は難解だが、次のように理解できよう。Après avoir vaincu...で始まる第一詩節はひとまとまりの独立前置詞句で、第二詩節冒頭の独立前置詞句の同じレベルに位置し、その主節となるのは第8行である。第5行のceciは第一詩節(すなわち、口づけの成功)を受けているのだろう。第6行のSes gemmes...はやや破格だが、第8行のNotre vieの同格。第三・第四詩節は第8行のnousの同格である。

[4] 原文にはplus longsとのみあり比較の対象が明示されていないが、後にqui la vêtent aussi(それもまた彼女が身にまとう)とあるので、髪がドレスと比較されているのであろう。

[5] 以上は暗示・ほのめかしの詩学に悖る行為。

[6] 原語のprestigieuseはラテン語語源praestigiae(幻影、幻想)を踏まえているはずである。人の生を「幻影」と見るところに本詩集の基本的な詩想を見ることも可能であろう。

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