他者の痛み:『愛のディスクール──ヴァレリー「恋愛書簡」の詩学』(森本淳生・鳥山定嗣編、水声社、2020年)/ 伊藤亜紗
『愛のディスクール』を読んで感じた率直な感想は、ヴァレリー研究者としての戸惑いである。私は文学研究ではなく美学の立場からその芸術論を中心にヴァレリーについて研究してきたので、このような伝記的な事実については知らないことばかりだった。もっとも、冒頭に記されているように、本書は...